アリスの林檎  

全てが反転した世界で私は、    





twitterで書いた物語です


落ちる。落ちる。
それはまるで 白兎を追いかけた
アリスのように。
私は夢の中へ、ひとり落ちる。

すべてが落ちる世界。
林檎も、紅葉も、太陽も。
下へ。下へ。下へ。
決して昇ることのない世界。
私も、あなたも、みんなも。
下へ。下へ。下へ。

一方通行の始点はどこ?
そんなささやかな疑問すら
解くことなど許されず、
私はひとり、
世界と同じように落ちていった。

あたりは宵闇に覆われていた。
足下。遥か遠くに
落ちた太陽が見える。
追いかけようとした私の側を
星が走り抜けた。
日々、怠惰に過ごす私には、
生命を燃やして得た輝きはない。
私も駆け抜けることができたら
煌めきのひとつになれるのかしら。
等速に落ちる逆さまに木から
林檎をひとつ もぎとった。
勢いつけて手放すと
落つる赤は夜に触れて光り、
そして夕焼けに呑み込まれた。

太陽に追いついた私は、
赤い世界に捕らわれた。
それは斜陽の色彩。
黒い鴉が青空へ向かって落ちていった。
一羽、二羽。
五羽まで数えたところで
さよならの音が降ってきた。
嫉妬と劣等感にまみれた私には、
この音のような美しさはない。
私は、あの鴉のような
黒い心しか持っていないのだから。
頭上で揺らぐ逆さまの木から
林檎をひとつもぎとった。
落ちゆく音にぶつけると、
騒音となり私の心をざわめかせ、
海のような青空に消えていった。

空と海が同化する真昼の世界。
その境界線を現にするのが
逆さまの木から落つる紅き言の葉。
水面に浮かび、沈む紅葉は、
逝く時すら凛としている。
死にたい消えたいと呟くくせに
一度も行えない未練がましい私には、
憧れ以外の何物でもない。
私がいなくなっても
日常が繰り返されるとわかっているのに。
孤独の林檎を片手に、
私は海の中へ落ちていった。

生きる糧なき海の中で
私を待っていたのは、
落ちゆく世界の最果て。
一方通行の終点でした。
そこまで落ちたら、
私も終焉を迎えるのでしょうか。
だけどそんなのは嫌。
私にはまだ、やりたいことがある。
絡みつく水を掻き、抗うけれど、
世界の理からは逃れられない。
終焉は私を取り込み、
私は終焉となった。

聞こえるは、木々のざわめき、鳥の声。
目を開けると、薄暗い空が光を迎えていた。
いつもと変わらない朝。
いつもと変わらない私。
しかしその手には赤い林檎。
私はそれを見つめ、
落ちる世界に歯をたてた。




初出:2012.12.29
掲載:2013.07.03